島医者の離島日記 〜"あの先生"であったこと〜

島医者の経験をもとに都市部の医療と比較

〜第1章〜 2020.4 -初めての急患搬送- その3

前回は「①設備が限られた中で"判断"をしないといけない」をお話ししました。

「②搬送する"基準"をどう考えるか」という視点で考えていきたいと思います。

私の中では"基準"を以下の3つで考えています。

1.緊急性と必要性

2.交通手段の問題

3.環境の問題

マグロ漁体験に行った時の朝焼け

1.緊急性と必要性

医学的に緊急疾患であれば搬送する判断は難しくないですが、緊急ではないけど限りなく早く専門医の診察を受けた方がいいこともあります。必要性を判断するために大事にしているのは"2回目サイン"です。これは「一度、診察と説明をした後でも再度同じ訴えで受診する状況」のことです。Aさんも2回受診をしていました。パターンは様々ですが、「症状がひどくなった」のはもちろん、「明らかに普通じゃない」、「今までこんなことはなかった」、などの患者さんの感覚はかなり大事だと考えています。離島から本島へ行くというのは島民にとってもある程度負担(金銭的、時間的に)があるので、特に離島医療でこのサインは重要で信憑性はあったと結果からも感じます。

 

2.交通手段の問題

南大東島は沖縄本島から民間航空機(RAC:Ryukyu Air Commuter)で片道1時間(1日2便)、フェリーで片道15時間(週1回)かかります。他の本島から近い離島では"ドクターヘリ"を使って搬送ができますが、南大東は距離が遠すぎて対象外となっています。そのため、状態が不安定な患者の搬送手段は"自衛隊"による搬送のみとなります。しかし、天候によっては自衛隊ヘリが飛べず、民間航空機のみが飛んでいる状況も発生(高度の問題で)します。この場合、医師が付き添える自衛隊ヘリを待つのか、移動負担のある民間航空機で本島へ行ってもらうのか、どちらがメリットがあるかを判断するのも島医者の大きな役目です。

 

3.環境の問題

離島でできる検査は限られていますが、マンパワーはさらに限られています。高齢独居の方が骨折した場合、生活困難となるためサポート資源の少ない離島にいることはできません。医学的に緊急疾患でなくても、自衛隊による搬送が必要なこともあります。また、それを管理する医療者側のマンパワーも限られています。診療所医師1人、看護師1人という体制で、夜に急患が来た場合、翌日朝まで診療所で見ることが、翌日の診療にどのくらい影響ができるか、という目線も考慮して搬送するかどうかを考えます。ここは離島経験者の医師でないとなかなか理解できないことかもしれません。

初めて見た時、自衛隊ヘリの大きさに唖然とした。

 

次回は「③患者の訴えは"背景"を踏まえて解釈する」についてお話しします。