島医者の離島日記 〜"あの先生"であったこと〜

島医者の経験をもとに都市部の医療と比較

〜第1章〜 2020.4 -初めての急患搬送- その2

今回は、前回お話したAさん(頭痛の高齢女性)を通して離島医療について考えていきたいと思います。①、②、③の視点でお話をします。(〜第1章〜 2020.4 -初めての急患搬送- その1 参照)

「①設備が限られた中で"判断"をしないといけない」

まず、医学的診断は、病歴聴取→診察→検査→診断という流れが一般的とされていますが、離島では行いたい検査ができないことは多々あります。

ところで、私は離島に赴任するつもりで研修を始めたため、常に「もし離島に行ったらどうしよう」と考えながら、各診療科で研修をしていました。

設備が限られている中でどこまで診断することができるのか。。。

しかし、色々な診療科で研修をさせてもらい、検査や治療を見てきましたが、結局、一番大事なのは"病歴と身体診察"でした。

南大東漁港 "大東ブルー"と呼ばれる色

昨今、医療が進歩したことで最新設備を備えた病院が増え、CT、MRI、PETなどの検査も当たり前の時代となっています。また、業務効率化のために電子カルテの病院がほとんどで、医師の業務も負担が減っているのかもしれません。

一方で、検査が増えていくことで"検査に依存する医師"も増えている気がします。症状だけ聞いて、患者と目を合わせず、パソコンを見ながらカルテを書き、体に触らず検査をオーダーする。こんな診療風景もあるのではないでしょうか。

検査は通常、"疑わしい病気が思い浮かんだ時"に必要な検査を行います。むやみやたらに検査をしてもそれは医療費の無駄になってしまう可能性があります。ある程度経験がある医師であれば、病歴を聞いて、診察するだけである程度の病気を想起することができます。

つまり、しっかりと病歴聴取と身体診察を行い、ある病気を想起し、"検査をしたらその病気の可能性が上がる時"検査を行うのです。しかし、離島ではその検査すらできず、診断できない時があります。そんな時どうするのか。

病歴と身体診察で疾患を想起し、"診断"ではなく、"判断"して緊急搬送を行います。

「患者の病気が何なのか」ではなく、「患者に今何をするべきなのか」を判断する必要があるのです。

今回は、高齢者、抗凝固薬内服歴、持続する頭痛、診察では血圧が高く、ぐったりしている様子から脳出血を含む頭蓋内の病気を考え、頭部CTにつなげる必要がありました。

もし脳出血があるならば、自分(あるいは家族)で飛行機を予約して飛行機に乗って本島に行ってもらうことはかなり危険が伴います。

仮に、本当の原因が熱中症だとしても、その人に脳出血の疑いでCTが必要と"判断"したら、自衛隊を要請し、緊急搬送にするしか手段はないのです。

自衛隊ヘリと救急車 南大東空港にて

今回は脳出血の診断となり、手術に繋がりましたが、離島にいる頭痛の患者を全員緊急搬送するわけにはいきません。

次回、「②搬送する"基準"をどう考えるか」という視点でお話をしていきたいと思います。