前回は"島民"になって感じた苦労についてお話ししました。
今回は南大東島に赴任して初めての急患搬送のことをお話しします。
※個人情報保護の観点から症例の詳細は改変してあります。
うららかな春のある日。初めての急患搬送がありました。高齢女性のAさんが頭痛を訴えて来院されました。南大東島はこの時期すでに気温が25℃近くなりますが、日中農作業を行なっていたため、軽い熱中症になったと考え鎮痛薬で様子を見ることにしました。しかし、翌日、頭痛が改善しないため再度受診しました。Aさんは血がサラサラになる薬(抗凝固薬)を内服しており、脳出血は考えないとならず、緊急搬送をして本島の病院へ入院しました。精査の結果、脳出血(硬膜下血腫)と診断され、緊急手術を行い、無事に退院することができました。
この方を通して、以下の点から離島医療を考えていきたいと思います。
①設備が限られた中で"判断"をしないといけない
②緊急搬送する"基準"をどう考えるか
③患者の訴えは"背景"を踏まえて解釈する
ところで、その前に離島診療所の環境についてお話しをします。
診療所の設備は、経過観察をするベッドはありますが入院はできません。酸素も病院のように無限に使えるわけではなく、酸素ボンベが診療所の隅に並んでいるだけです。また、行える検査も簡易採血(血液ガス )、心電図、胸部X線、超音波、顕微鏡しかありません。Aさんは設備の揃っている病院であれば、頭部CT検査を行いたいところですがそれもできません。
そして、マンパワーの少なさも考えなくてはなりません。医師1人、看護師1人しかいない中で、お互いが補完し合いながら、事務や消防団(村役場の有志)の力を借りて何とか診療しています。状況によっては無理をしなければいけない時もありますが、我々も人間です。体力、精神力も限界があります。もしも無理をして、体調を崩したり、精神的に参ってしまった場合は、それこそ島民に大きな被害を与えてしまいます。
それではこの環境の中でどうやって診療をしていくのでしょうか?
次回は「①設備が限られた中で"判断"をしないといけない」について話していきたいと思います。
※個人情報保護の観点から症例の詳細は改変してあります。