島医者の離島日記 〜"あの先生"であったこと〜

島医者の経験をもとに都市部の医療と比較

〜第1章〜 2020.5 -島医者は甘くない- その1

前回は離島と都市部の救急搬送の違いについてを話しました。今回は、前回のケース(〜第1章〜 2020.5 -離島の洗礼- その1 - 島医者の離島日記 〜"あの先生"であったこと〜を参照)の2日後にあった出来事について話をしていきたいと思います。※個人情報の観点から症例の詳細は改良してあります。

前回の搬送を済ませ、通常業務に戻りました。疲れはまだ取れず、なんとか今週を乗り切ろうと思っていました。

診療もそろそろ終ろうとしていた夕方。

車が診療所の前に止まり、男性が駆け込んできました。知人が急に意識を失って、全く反応がないとのことでした。急いで車に見に行くと、後部座席に女性が横たわっており、顔面蒼白で脈を触れると心停止していることがわかりました。すぐにみんなで診療所に運び、心肺蘇生を開始しました。診療所のマンパワーでは人手が足りないため、事務員に役場に連絡をしてもらい、消防団を招集してもらいました。

胸骨圧迫をしながら、看護師と消防団に指示を出し、除細動器を貼ってもらい、2回程電気ショックと強心薬を投与したとろで心拍が再開しました。

患者に呼びかけましたが、反応がなく、意識障害が遷延していたため気管挿管をすることにしました。これまでに気管挿管は何度もやっていましたが、医師1人という環境では初めてで、僕も気が動転していたため、何度も深呼吸をして気を落ち着かせました。1回目の挿管で成功し、搬送の準備を始めました。ところが、自衛隊へ緊急搬送依頼をすると、天候不良のため今すぐには自衛隊が迎えにいくことができないとのことでした。

蘇生から搬送までに使用した薬剤の量

その後、搬送担当の医師につながりました。現在、久米島でも急患が発生しているが、那覇周囲の天候が悪く、待機中である。重症度から考えると、こちら(南大東)を優先するため、それまでなんとか頑張るようにと返事をもらいました。

患者の状態を把握するために採血(血液ガス)をするとpH 7.145, PaCO2(血中二酸化炭素) 70mmHgと呼吸性アシドーシス(体に二酸化炭素が溜まりすぎて体が酸性の状態)がありました。しかし、前回のケースで採血キットが後2回分しかなく、診療所に置いてあった簡易CO2モニターをつけて、最低限の検査で状態を把握することにしました。※個人情報の観点から症例の詳細は改良してあります。

一難去ってまた一難の状況ですが、なんとか蘇生はすることができました。しかし、また天候不良によって搬送することができず、"島医者は甘くない"と島にいわれているような感覚になりました。このあとさらなる予想外のできごとが起きます。次回はそんな困難の中、無事に搬送ができたかについて書いていきたいと思います。