島医者の離島日記 〜"あの先生"であったこと〜

島医者の経験をもとに都市部の医療と比較

column -離島と都市部の救急搬送-

前回まで2回に渡り、急変した患者を天候不良で搬送できない事例についてお話しました。今回はcolumnとして離島と都市部での救急搬送の違いについて話をしたいと思います。

最善ではなく、乗り越える医療

離島はとにかく資源がありません。前回の事例のように検査キットも限られていて、酸素もボンベで管理しているため無限には使えません。そして、何よりも"すぐに病院へ運ぶことができない"という事態が発生します。最善の管理ではなく、患者がなんとか乗り越えられるように、資源や搬送経路を考えます。ここが離島におけるマネージメントの難しさだと思います。しかし、離島では、対応できなければすぐに搬送するため、逆に流れとしてはシンプルなのかもしれません。そして、大概の相談をした病院が受け入れをしてくれます。資源が限られているので診療所内でできることが限られています。それを基準として、超えたら搬送となるというわけです。ただ、医師1人、看護師1人というマンパワー不足を考えると、そこも含めて搬送の基準を考えなければなりません。前回の事例のように2日間寝ずに患者を管理し、翌日が診療の場合、さすがに疲労の蓄積があります。しかし、すぐに代わりの医師が用意できるわけではありません。その疲れは間接的に患者にも影響する可能性があるため、そこまで考えてマネージメントが必要なのです。

搬送中の南大東空港にて 晴天

マンパワーで乗り越えることができる

都市部でも診療所でできることは限られており、必要があれば病院へ搬送することがあります。搬送する基準はあまり変わらないかもしれませんが、準緊急(今すぐではないが、近いうちに入院が必要な時)であれば、数日間在宅医療で見ることもできます。また、都市部では搬送したい病院が受け入れできなくても、輪番制で受ける病院があるため、救急隊が遠方でも病院を見つけてくださります。これはマンパワー、医療財源があるからこそ成り立っていると思います。しかし、都市部でたくさん病院がある中でも、新型コロナウイルスが流行したときに受け入れ先が見つからない事態が顕著になりました。なぜなのでしょうか。専門家が不在である、病床が満床である、発熱患者を分離して見る場所がないなど様々な理由があると思います。さらに、この原因は医療者の心理的な部分にもあるかもしれません。都市部では病院の数は圧倒的に多く、自分が診なくてもなんとかなってしまうところがあります。自分のいる病院の体制、設備を考えると他の病院で診てもらった方が良いと考えてしまうのです。実際、都市部にきて1年になりますが、自分もそのような考えになっていると感じることがあります。マンパワーで乗り切れる良い面もたくさんありますが、医療者への"誰かが診てくれるだろう"という心理的面に影響はあると思います。

このように離島と都市部では悩む内容がまったく違います。その地域医療を担う家庭医にとって資源、マンパワーを考えながら、マネージメントする能力は必要とされるスキルなのだと思います。